環境意識が急速に高まっている欧米を中心に、最近では旅行者が消費すること自体にも環境問題とか地域の持続性(サステナビリティ)とかを気にする風潮が高まり、飛行機はCO2排出量が多いとか、この宿泊施設は食品廃棄ロスに対応していないとか言われ、受け入れサイドが準備すべきことのハードルがどんどん高まっています。まだ訪日インバウンドが戻っていない日本ではあまりこの問題が顕在化してませんが、今まさに観光庁が力を入れている「富裕層」マーケットがその最先端の旅行者です。
この先訪日外国人が戻ってきたときには、環境意識の高い旅行者に対して必要なのは高級な設備(ハード)以上に観光産業として環境対策をどこまで身に着けておくのか(ソフト)のほうが実は急務だったりするんじゃないかなぁと心配しています。
環境意識が高い層の旅行者はウエルネスツーリズム(wellness tourism)についても最先端を求めているようです。コロナ禍前に訪日インバウンドが毎年盛り上がっていたころに現れていた兆候としては、日本へのリピート回数が増えると有名観光地や大都市を廻った次の目的としては「体験へのシフト」、つまり日本の食や文化を体験するプログラムや自然を体験するアドベンチャーツーリズム的なプログラムに注目が集まっていました。
そこから3年間の空白の後、海外の旅行メディアの記事を見ているとウエルネスツーリズム(wellness tourism)が次のトレンドとして書かれる頻度が高くなっているようです。ここ数年の閉そく感からの解放を求める動きは実際に旅に出て都市観光でストレスを発散するのではなく、自然豊かな環境に身を置いて、心の平静を取り戻す時間を求める方向へと進んでいるようですね。
ウエルネスツーリズムは、もともとホテル業界を中心にスパトリートメントのようなリラクゼーションを求めるところからはじまり、ヨガが人気を集め、屋外での朝ヨガからマインドフルネスとかの瞑想に変化していきました。これからはさらに一歩進んで、瞑想から悟りを感じる場所や自然の中にさらに入り込んだ森林セラピー等のプログラムへと求めるものがシフトし始めているようです。
日々の喧騒から離れてデジタル機器も部屋においてデジタルデトックスな状態でからだの健康、心の健康と向き合う時間を求めているということでしょうか。
なんだか難しいことを書いているようですが、
自然の音しか聞こえない森の中。
とうとうと流れ落ちる滝の音。
夜は満天の星。
そして、なによりも自然の中で迎える朝。
これって日本では当たり前に手に入るものです。
これをどうやってビジネスにするか?
ビジネスとして大事なことは「効果を示す、根拠を示すことのできるプログラムにすること」
これがとても難しいことでして、旅行が個人にもたらす変化を医学的に示せと言われてもたった数日の旅行期間の中で明確なバイタルデータの変化なんて見られませんから、成果を証明できるものはないわけです。
ウエルネスツーリズムで求められているのは、今行っていることが「環境に負荷をかけていないか」「環境保護に役立っているか」「地域の持続性に貢献しているか」など、自分の行為について明確に具体的に説明がつく根拠なのではないかと思っています。そこに対する納得感、安心感をもって自然にどっぷりと溶け込み、心の安定を得ている、そんな感じがします。
いろいろな記事を見ているとウエルネスツーリズムとウェルビーイングという言葉は、自分の幸福の話でありながら、多くは環境問題とセットで語られています。
ですから、これらを商品化するために必要なことはバイタルデータの根拠ではなく、この素晴らしい環境がどうやって生まれたのか、この森を維持するためにどんな活動をしているのか、旅行者はそこにどのように寄与できるのか等のプログラムやストーリー作りをしていくことが今後求められていくことでしょう。
日本にはとても身近に海があり、山があり、森があります。
アフターコロナの訪日インバウンド市場においては、何もないと思っていた目の前の森が森林セラピーのプログラムとして利益を生み出す可能性があるというわけです。
○regenerative tourism ・・・再生型観光、旅行先の環境や状況をより良くするような旅行
○wellness tourism・・・心身の健康増進や精神的幸福を目的とした旅行
このふたつのトレンドキーワードには共通点があります。
「来た時よりも帰るときのほうがよくなった状態で帰宅する」ということ。
どちらもハードルが高そうに感じますが、ちゃんと準備しておかないと気持ちよく帰っていただけませんよ。