アナログな里山にデジタルを持ち込むとサブスク型の仮想空間体験が生まれる 110/100

ここにきて、私の周りでは地域の農村振興について企画を考える機会が増えてきてます。
常に出てくる課題は、少子高齢化、過疎化、放棄耕作地、跡継ぎ問題等、農村集落の解体に伴い課題が山積、聞けば聞くほどもはや高齢化した農家の独力ではどうにもならない状態だということ。

農水省としても観光切り口でいえば、「農泊」を推進して農家で宿泊しながらいろんな農業体験ができるような仕組みを提案したり、農業遺産として棚田やトキの放鳥、わさび田の保護のような保護活動をしたり、ジビエなどの食提案など、様々な施策を打ち出していますが、いかんせんそれを実際に動かす人の手がないわけですから、大きな課題解決策にはなりえていないのが現状ですね。

そこで考えてみたのが、着地型の体験について。

農家での体験は農家の皆さんにとっては「日常」でも、都市に住む人たちにとっては最も「非日常」ですから、なにをやっても新鮮で楽しいし、思わず写真を撮りたくなるような体験も多いと思います。田植え体験、野菜の収穫体験、果物狩り、稲刈り体験、そこから派生する料理体験。あとはわらじを作ったり、かごを編んだり。魚釣ったり、バーベキューしたり。地域ごとに様々な工夫をして外からのお客様を集めています。

・都会ではできない貴重な体験をここでは日常的に体験できる
・野菜嫌いの子どもが自分が収穫したことをきっかけに野菜を食べるようになった
・野菜やお米を作る大変さを実感して、食べ物を大事にするようになった
・自分の口にするものがどうやって作られているのかを知ることができる
・作ってくれる人への感謝の気持ちを学べる
・畑を育てるための土や水を実際に見る、感じる
・畑に住んでいる虫や生えている植物を知る
・自分で採った農作物がそのまま料理になる過程を見ることができる

参加者側からすればメリットたっぷり。
教育的にもいいし、わざわざ遠いところからくるだけの甲斐がある。

受け入れ側としては、
・体験で売り上げが上がる
・市場に出すより、利益が高い
・こどもたちとの交流が楽しい
一方で、
・天候リスクが高い
・実施頻度が低いから収入としてあてにはできない
・生産活動以外は苦手

サービスとしては好評なのですが、いまいちうまく回っていない感じがしますね。
いったい何が足りないのか?

これは農業体験だけのことではないのですが、望ましい姿としては、
①常に売り上げが上がる
②利益率が高い

「時間」「天候」「観光客」という不安定要素のかたまりのようなビジネスはしっかり儲けられないと地域に定着しないというところが弱点です。ですから、体験で成功しているのは、もともとの商売があり、天候リスクの少ない「蕎麦屋がやっているそば打ち体験」、「陶芸工房がやっている陶芸教室」、「ガラス細工やさんのトンボ玉体験」くらいです。

ただし、成功しているといっても「観光客」相手の一過性の商売がメインですから、宣伝費用が掛かったり、季節波動があったりしますので専業になるほどではありません。
また、「体験」は時間を売る商売ですので、営業時間の範囲内で受け入れ人数には限りがありますのでどうしても非効率といわざるを得ません。ですから、体験に加えて、何を売るか?、メインの商材を売るための体験にするべき、などと考えながらサービスの組み立てを行うのが常です。

話を農業体験に戻しますと、
ここまでの話のように「時間」「天候」「観光客」という要因に左右されやすい農業体験は、しっかりと儲けられるものではないようです。

そこで「時間」「天候」「観光客」を「いつでも」「どこでも」「そこにいなくても」できることはないか?と発想を切り替えてみました。
ある意味、それを体験というのか?(笑)みたいな発想ではありますが。。。

以前こんな記事を書きました。
こどもたちが自由に自然観察できる場所がない 57/100
収穫体験のような単発の農業体験とかは以前より増えているような気がしますが、都会の子どもたちは貸農園、市民農園くらいしか通年で土をいじれるところはない。
そんな子どもたちのために「通年で自然観察ができる里山施設」があるといいんじゃないでしょうか?
という提案でした。

今回の発想はその「通年で自然観察ができる里山施設」にデジタル機材を導入して会員制にしてみるとできることがもっと増えるのではないかという仮説です。

こどもたちには
まず、一度は来てもらう。
里山には何があり、どんなことが体験できたり、実験できたり、観察できたりするかを実際に知る。
気に入ったら、会員登録してもらう。

会員は自分が体験した「田植え」等のその後を観察できる。
季節ごとにオンラインツアーを楽しめる。
希望する実験に参加できる。
継続的な観察ができる。
そして、いつ行ってもその続きを経験できる。

この仕組みは「人の手」に成り代わって、デジタル技術があれば全部できます。
・ライブ配信機能
・ライブカメラ映像
に加えて、よくテレビ番組とかで詳細な映像やドアップ映像などを見せてくれる
・高解像度のカメラ
・デジタル顕微鏡
・ドローン映像
等を駆使すればほとんどテレビ番組並みの情報を会員の子どもたちに届けることができると思います。
現地スタッフは里山の環境整備、生産活動を日常的に行いながら子供たちの観察や実験をサポートします。機材セットさえしっかりしていれば、機材操作のオペレーターもリモートで遠隔操作が可能です。

・毎日里山がどうなっているかを見ることができる
・プロのカメラ機材で普段見られない映像が見られる
・継続的に観察している植物や生き物の画像データがいつでも確認できる
・里山でできるいろいろな実験に参加できる
等などできることはたくさん。

この会員制の仕組みがあれば、「夏休みの宿題もばっちり」できますから、親にとっても一石二鳥。
これまで体験は一過性のものでしたが、デジタル機器をうまく導入することでサブスク的なビジネスモデルへと変化させることができるのではないかと思います。

農村や里山は都会には絶対にない環境。
普段公園でボール投げすら許してもらえない子どもたちにとっては何をやっても許されるところ。
ドロンコになって遊んでもいいし、大声を出してもいい。
ドローンも平気で飛ばせます。

リアルの世界だけでも十分に魅力的ではありますが、このリアルな里山環境に最先端のデジタル機器を導入できれば、都会との距離が一気に縮まり仮想空間的に里山の環境を楽しめる世界が実現します。ということは今話題のメタバースという仮想空間は無機質で実感のない世界なのでまだまだ楽しむ場所とは言えませんが、デジタルな里山仮想体験施設はリアルとの融合として大いに可能性があるのではないでしょうか。リアルとバーチャルで交流する子どもたちが増えるといいですよねぇ。