かつて旅館といえば「一泊二食付き」が定番でした。夕食は部屋で、朝食は広間で──そんなスタイルが日本の旅文化を支えてきました。
しかし今、旅館の売り方が大きく変わろうとしています。キーワードは「泊食分離」、そして「一泊一体験」という売り方へ。これからは食事ではなく、地域とのつながりや文化体験を軸にした宿泊スタイルが、リピーター獲得の新たな鍵となっていきます。という予測を書いてみることにします。
「泊食分離」の潮流
- インバウンド観光の増加
海外からの旅行者は、地元の屋台や飲食店で食事を楽しみたいというニーズが強く、旅館での食事提供が必須ではなくなってきました。 - 決められたスケジュールより、SNSが旅の選択肢
国内旅行者も「地元で人気の食事はやっばり有名店で味わいたい」「インスタにのっていたお店にいってみよう」「好きな時間に好きな場所で食べたい」という傾向が強まり、食事場所、食事時間やメニューに縛られたくないという声が増加しています。 - 人手不足と業務効率化
経営者の高齢化、調理・配膳スタッフの確保が難しくなり、食事提供を外部に委託したり、そもそも提供しないことで業務負担を軽減する動きが加速しています。
一泊二食がリピーター獲得に不向きな理由
- 選択の自由がない
固定された食事スタイルが、旅行者の自由な行動を制限。特にリピーターは「前回と違う体験」を求めるため、同じような食事では飽きが生じやすいというリスクがあります。 - 地域へのリピーター化を妨げるケースも
宿内で食事が完結してしまうため、地元の食文化との接触機会が減ってしまい、地域の人との交流やつながりの機会を逸するケースがあります。 - 価格の柔軟性が低い
一泊二食のパッケージは価格が高めになりがちで、食事の価値に納得できないと再訪につながりにくい傾向があります。
今後、泊食分離型旅館がリピーターを獲得するためは?を考える
- 地域との連携強化
宿泊のお客様がより地域を楽しんでいただけるような連携施策を提案する
・地元飲食店との提携(食事券・紹介マップなど)
・「食の回遊モデル」構築(スタンプラリー、食べ歩きパス) - パーソナライズと柔軟性
滞在スタイルに合わせた部屋タイプ別の販売、特定ルームのデコレーション等、目的に応じて滞在の楽しみ方提案を行う
・滞在スタイル別プラン(ワーケーション、連泊、3世代イベント、ファミリー宿泊プラン等)
・顧客データ活用による再訪設計(好みに応じた提案) - 宿泊客との関係性の構築
お客様とのダイレクトなつながりを重視した情報発信や双方向性の高いコミュニケーション
滞在後のフォローアップ(メール、地域情報配信)
地域コミュニティとの橋渡し(地元イベントへの招待など)
など、従来はOTAへの広告掲載や販売手数料に偏ったいた販促コストを大幅にシフトさせ、食事がなくても滞在を楽しんでいただけるようなこれまでとは違う施策展開が必要となってきます。また、目的はリピーター獲得となりますので、OTAに依存しない直販比率の向上がKPIとなります。
「一泊一体験」で旅の価値を再設計しよう
では、客室平均単価(ADR)をできるだけ下げずに泊食分離を実現する方法はないでしょうか?
食事の提供を行わないことにより、旅館としてはお客様に対して新しい過ごし方の提案を行う時間が生まれます。また、スタッフにとっても配膳や飲料提供、片付け等の時間がなくなり、新しい時間が生まれます。その時間をもとに「地域とのつながり」や「文化体験」を軸にした新しい価値を創出することができます。
例えば、地元の職人によるワークショップ、朝ヨガ+地元カフェ券付きプラン、まちあるきガイドなど──
星野リゾートのOMOシリーズが展開する「ご近所マップ」や「まちあるき体験」は、まさにこの流れの先駆けです。
コロナ禍を越えて、観光庁も地域のDMO、観光協会などの組織も未だに着地型の観光コンテンツ開発を強化しており、さまざまな体験商品が生み出されているものの、残念ながら、あまり「売れた!」という話は聞きません。なぜならば、体験プログラムの提供事業者はお客様がいつどこに宿泊しているかを知らないので、コンタクトをとるすべがないのです。ですから、着地型観光のOTAに掲載したりするのですが、こちらはこちらで販売手数料が非常に高いために利益につながらない。結果、持続的に販売できていない。
私はそれを解決できるのは旅館だと思っています。
その地域にお客様がいつ、何人で、何日間滞在するのかを唯一知っている存在であるからです。
ですから、宿泊と体験は一緒に売るべきなのに、販売するシステムが追い付いていないのです。現在、宿泊サイトの販売システムでは、食事の有無により、宿泊プランを提供する方法しかありません。そのため、プラン名称や商品概要でしか「体験」を訴求できないのが残念です。
旅館は「泊まる場所」から体験を通じて「地域とつながる拠点」へ。
一泊一体験の発想が、これからの観光のスタンダードになるかもしれません。
「一泊一体験付き宿泊プラン」の販売が当たり前になる時代も近いのかもしれません。
そのために必要なのは「一泊一体験付き宿泊プラン」の販売システムです。
まだ食事基準のプラン販売がメインですから、体験付き宿泊プランが標準的な予約システムとしてできている直売サイトもOTAもなさそうなので、新たなチャンスが生まれるかもしれませんね。
体験プログラムを開発している事業者のみなさんも旅館・ホテルのみなさんと組むことで新たなビジネスチャンスが生まれると思います。
食事から体験へ。
宿泊目的が変わると旅館はもっと面白くなるでしょうね。


