地域で仕事をしたくなる「ふるさとワーケーション」という発想 103/100

アイディアメモ

ワーケーションに必須なのは「通信環境」と「個室」と「コンビニ」

コロナ禍での在宅勤務からはじまり、わざわざ満員電車に乗って通勤しなくても、全員がいつも顔を合わせて会議をしなくても、通信環境さえ整っていれば世界中のどこでもパソコン一つでリモートワークができることがわかりました。それが可能なビジネスマンは全国へ旅立ち、気に入った場所で気に入った宿に泊まり、快適に仕事にいそしむという新しい仕事のスタイル、そして、新しい旅のスタイルが生まれました。この2年間でワーケーションもすっかり一般用語として定着した感がありますね。

観光庁では休暇を主体とするか仕事を主体とするかによって、「休暇型ワーケーション」と「業務型ワーケーション」の2つに分類に分けて整理しています。
1.福利厚生型・・・有給休暇を活用、リゾートや観光地で余暇を楽しむテレワーク
2.地域課題解決型・・・地域関係者との交流を通じて地域課題の解決策をともに考える
3.合宿型・・・リゾート地などオフィス外での合宿、研修、職場のメンバーで議論を交わす
4.サテライトオフィス型・・・サテライトオフィスやシェアオフィスでの勤務
5.ブレジャー型 ・・・出張先等で滞在を延長するなどして余暇を楽しむ

ただ、ワーケーションといってもようするに仕事をする場所が違うだけで、仕事をしていることに違いはないはずなのに、どうしても「意味」とか「型」を持たせたくなるのでしょうか?
出発前から「地域課題解決」が目的ならばそれは「出張」なのでは(笑)
「合宿」するのは「研修」が目的なのでは(笑)
と、少し突っ込みたくなりますね。

仕事をする側の立場からすれば、ワーケーションでなによりも大事なのが「セキュアで安定した通信」と「テレビ会議ができる個室」でしょうか?
通信が途切れず、会議内容や発言内容が外に伝わらない個室環境があり、トイレとか休憩に出ても荷物の心配がないのがいいですね。もちろん、電源はマストです。
そして、次にほしいのが「コンビニ」。
せっかくリゾートとかで仕事をしてるわけですから、ランチタイムに地元の名物を食べるのもいいのでしょうが、仕事中はあくまでも「オン」の状態なので、ドリンクでも軽食でもスナックでもほしいときにいつでもほしいものが手に入るほうがいいです。

ようするに都会での仕事場と同じ環境を求めていたりするのです(笑)
ですから、結局ほしいのは「ほぼ職場環境型」となってしまいます。それがあってはじめて、バケーションどうする?って感じですね。

地域がワーケーション誘致に取り組む理由はわかるが。。。

ワーケーションやリモートワークの快適性を求める利用者側としては、リゾート気分だけど、コンビニは欠かせないとか。。。そんな贅沢なことを考えてしまいがちですが、全国でさまざまな地域が受け入れ先として名乗りを上げ、ワーケーションで新しい旅行需要をとりこむための取り組みを始めています。
・平日の宿泊
・連泊
・気に入ったらリピーター化
・ビジネスマンという新しい客層
確かに魅力的です。
ワーケーション誘致に向けては、リゾートホテルにコワークスペースを設置したり、Wi-Fi環境を整備したりして「ワーク」のインフラを整えるところから始まっているのですが、それ以上に熱心なのが「バケーション要素」のアピール。
ワーケーションを通じて地域が求めるのは「当地を気に入ってもらい、何度も来ていただける場所になること」ですから、他の地域との違いはバケーション要素、つまり観光の魅力をアピールすることとなります。

私としては、いろいろな観光スポットのアピールもいいのですが、何度も来たくなる理由というのは、いろいろな観光が楽しめることではなく、「当地とのかかわりが深くなること」なのではないかと思います。
ワーケーションでのメインは仕事なのでしょうが、空いた時間にあちこちの観光スポットを巡るのではなく、コワークの施設周辺で過ごすカフェ、食事、買い物等の機会をいろいろな地域の方々とかかわるため時間にしてはどうかと思います。

せっかく地域に来たのですから、数日間を過ごす滞在の中で「知り合いを作る」「交流機会を作る」ことにより、なじみの方が増え、挨拶する人が増えていけば、「また会いたくなる」「また訪ねたくなる」場所として再来訪してもらえるのではないかと思います。これって、「第二のふるさと」にもつながり考え方ですね。

ふるさとワーケーションが意外といける理由

さらに一歩進んだアイディアとして、
・ふるさとと少し疎遠になった方にふるさととの関係の再構築
・地域の人と交流を求めている人にいつでも来られるふるさとみたいな場所づくり
に向けて、「ふるさとワーケーション」というのはいかがでしょうか?

多くの地域の課題として、地元に大学や企業がないために高校卒業のタイミングで都会に出て行ってしまう人口流出問題。若くして東京に出て行ってしまい、卒業しても戻ってこないケースがほとんどですね。就職して何年か経つと地元の友人とも知り合いとも疎遠になりますし、20年とか経ってしまえば実家くらいしか行くところがない。そんなかたも多いのではないでしょうか?

それとは別に全国各地を旅行している人でも、これまでは旅行で地域を訪れても一泊したら次の地域に移動するのでなかなか地域の方とかかわりが持てたり、じっくりとつながりを作れる人は少ないと思っています。日本人の旅行は基本的に週末の一泊だけですから、地域の日常を知ることはほとんどありませんでした。これでは何度行っても「一見さん」です。

ワーケーションをキッカケに地域とのかかわりづくりを応援する「ふるさとワーケーション」

<地域の自治体、コワーク施設の方にやっていただきたいこと>
・町の人たちとのかかわりをお手伝いするコーディネーターが滞在中のお世話をする。
・地域の古い歴史とかではなく、最近できた新しいお店は?みんなどこで買い物しているか?スーパーではどんなもの売ってるのか?とか、地域の今、今の生活を教えてくれる。
・昔からある企業とか、重鎮の方でなく、最近頑張っているスタートアップとか、2代目・3代目社長とかとのマッチングをしてくれる。
・どこがどれくらいで住めるか、どの地区に若い人が多く住んでいるかとかの住宅情報を教えてくれる。
など、自分だけで動いても意外と出会えない人やコワーク施設周辺では聞けないような情報を提供してくれると、地元のことを知ると、もっとその地域に対して興味がわき、知り合いが増えれば「また会いたくなる」という好循環が生まれるのではないでしょうか?
かつてこの町に住んでいた方も、あらためて「今の地域」を知ることで、ふるさとへの愛着を再認識し、また戻ってくる可能性も高まると思います。

「知らない土地より知ってる土地」「誰も知らないより知ってる人がいるところ」
そっちのほうが落ち着いて仕事ができますね。

こんなサービスをワーケーション利用者に提供してくれると、滞在が終わると「ワーケーションのお客様」扱いではなく、「地域の仲間」扱いとなりますね。そして、そこで生まれた新しいつながりから、新しい交流、新しいビジネスへと広がる可能性もあるのではないでしょうか。
「かかわり」の有無って大事なポイントですね。

全国各地域で様々な取り組みが始まっていますが、ワーケーション誘致のためにバケーション要素をたくさん並べたてるより、地域の日常に近づいてもらうための方策を考えるほうが地域を身近に感じられるのではないかと思います。集客の発想を「一泊ベース」ではなく、「連泊が当たり前」と切り替えることが大切ですね。

■ご報告■2023年2月追記
おかげさまでこの考え方についてはその後、令和4年度観光庁ワーケーション推進事業に採択され、新潟県上越市において「上越ふるさとワーケーションプロジェクト」を立ち上げ、3回にわたり実証事業を行うことができました。
上越ふるさとワーケーションプロジェクトホームページ
https://workation.furusatto.com/
ブログ記事で書いたことは結構イメージ通りにすすめられ、地域を知れば知るほど、地域の人とかかわればかかわるほど、地域に対する愛着は生まれ、「また来たくなる」「すすめたくなる」場所となる感じを直接参加者から受け止めることができました。
ただし、みなさん仕事をしに来ているわけですから、仕事環境・生活環境については「個室ワークスペースがほしい」「スーパーが近くにないと」「遊びと仕事の切り替えが必要」等、ご意見もいただきました。ここで書いた事業アイディアが実際に検証できたのはとてもよい経験となりました。