オンデマンド交通を支えるリバースモビリティサービス 99/100

新規事業100

全国の多くの地域では、不採算の路線バスルートの廃止や高齢等の理由から車の運転をあきらめる人の増加などにより、高齢者を中心として日常生活の移動に不自由する交通困難者への対応が課題となっています。

私は、まだMaaS(Mobility as a Service)という言葉もサブスクという言葉も世の中に出ていなかった2015年に高齢者向けに「タクシー定期券サービス」をはじめて旅行商品のしくみを使って作りました。残念ながらそのタイミングでは市場を作れず、途中で断念しましたが、今でいうなら、タクシー定期券というこれまでになかった「サブスク型」のサービスを定額乗り放題という「MaaS的」な発想でやったということになります(笑)
新規事業の担当者はいつの時代もスタート時に反応が薄いと「早すぎる」とお叱りを受け、残念ながらサービスが終わってしまった後に市場が顕在化すると「早すぎたな」と嫌味を言われるものです(笑)
「早すぎる」と「早すぎたな」の間っていったいどこにあるのでしょう。永遠の課題ですね。

それからすでに7年たち、今、高齢者の多い地域ではリクエストに応じて配車してくれる乗合型のバスサービス「オンデマンド交通」や渋谷や大阪などの都市圏ではエリア内定額乗り放題タクシーなど、AIを使って最短距離を提案しながら運行する乗合型のサービスが全国各地で展開される時代となっています。これらのサービスは地域のバス路線が廃止された後にコミュニティバスが運行されたりしていますが、それですら運営が困難ということで、さらにローコストなサービスとして定着を期待されています。とはいえ、自主事業として成立している事例はほとんどなく、まだまだ実証実験レベル、もしくは自治体の経費負担により動き始めているのが現状です。国としても地域交通網の整備は重点的な課題であり、「地域公共交通確保維持改善事業」を推進しており、令和2年度には204億円もの予算を積んで対応を始めています。

『令和2年度交通安全白書』によると、70歳以上の運転免許保有者は1,245万人。運転免許保有者全体の15.2%を占めています。高齢ドライバーによる事故が増えているというニュースがたびたび報道されますので、対応が進んでいるかというと、
地域では
・農産物の運搬ができなくなると収入がなくなる
・自動車がなくなったら買い物すらいけない
・毎回、家族に運転してもらうのは忍びない
・知らない人に運転してもらうのがイヤ
など、それぞれの理由があり、なかなか高齢運転者の自動車運転免許の自主返納が進められないのが実情です。

日本では自家用車を使って有償で人を送迎することが道路運送法で禁止されていますので、まだ実現可能性は低いのですが、地域に行くとそうとは言ってられません。バス路線はますます減少、タクシー車両数も減っていますし、タクシーの乗務員の平均年齢さえも60歳と高齢化しています。
現段階においては代替交通手段がない中、税金を投入してオンデマンド交通サービスや乗合バスを続けるしかないという状況となっているのですが、自家用車はドアtoドアの乗り物、バスはバス停までの乗り物ですから、最終的にはライドシェアを検討せざるを得ないと思います。

私の考える解決策は、
UBERやLyftのようなライドシェアアプリのしくみを使って、地域内で元気な人が2種免を取得して副業的にマイカーでいつでもお出かけをサポートする共助のネットワークを構築する「エリア内共助ライドシェア」しかないなと思ってます。これを管理するのは地域のタクシー会社の新しい役割とします。
ただこれは都会でタクシー会社の採算が成り立っているところでは導入する必要はなく、高齢者人口に比してタクシー車両数が少ないエリアに限定して採用すればいいのではないかと思っていますが。

エリア内共助ライドシェアのようなしくみが仮にできたとしても、実際に運転する人がそれなりに満足できるフィーをもらえなければ、このサービスも結局は成り立ちませんし、あまりにも高額な運賃でも成り立ちません。持続可能な事業にしていくためには安定的な財源と支払い可能な運賃設計が必要です。

冒頭にお話ししたタクシー定額乗り放題のサービスを利用したくない人の意見として、「乗るか乗らないかわからないタクシーサービスに毎月1万円とか2万円とか払うのはイヤ」「タクシーはぜいたく品、高い乗り物に毎日乗るのは気が引ける」という意見がありました。そんなことをいっている半面、200万円とか300万円を先に払ってマイカーを購入し、毎月ガソリン代がかかっていることを一向に気にしていないという面白い心理を知りました。

そこで考えたのが、「リバースモーゲージ」ならぬ「リバースモビリティ」

リバースモーゲージとは、自宅を担保に生活資金を借入れし、自らの持ち家に継続して住み続け、借入人が死亡したときに担保となっていた不動産を処分し、借入金を返済する仕組みです。
この仕組みと全く同じではありませんが、
免許証自主返納で売却した自家用車の車両代を「リバースモビリティ基金」に積み立てて、そのお金の中から毎月ライドシェア代金を支払っていくというしくみはどうかと考えてみました。
これにより、運転免許証を返納した後も「エリア内共助ライドシェア」に毎月定額を自動的に収めることでいつでも近所の知り合いのドライバーさんを呼んでどこにでも行けるというサービスです。
わかりやすく言えば、すでに支払いが済んだマイカーの残価を家計に戻さずに、ライドシェア代としてまとめてプールしておき、そこから自動支払いするので、普段はお金のことを気にせずおでかけに利用できる。使わなくなったら、返金または寄付すればよい。先払いしてしまえば負担感なく安心して使えるので、利用頻度が上がる、そうすればドライバーのフィーも増えていくという好循環を期待します。

70歳以上で1,245万人、75歳以上で590万人の運転免許保有者がいますので2人に1台マイカーを保有しているとしたら75歳以上の家庭には全国で300万台くらいの車があります。それをすべて売却し、仮に50万円ずつ返金されたら1,500億円の財源となります(笑)

環境保護のためにも自家用車を減らして、そのお金で元気なうちはライドシェアでお出かけするという新しい習慣を作ることができれば地域での暮らしも便利で楽しくなりますね。

※新規事業100のカテゴリーは、私の思いつく観光系新規事業を日々書き留める場所。
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