「食」で地域を盛り上げるために必要なことがなんとなくみえてきたという話

アイディアメモ

旅ナカラボは「日本の旅をもっとおもしろく」するため、地域の観光シーンに入らせていただき、いろいろとお仕事に取り組んでいるところであります。企業理念ではなんとなくそれっぽいことを書いてはいるものの、わが社で投資を行い、ビジネスモデルを持っていればわかりやすいのでしょうが、「観光新規事業開発支援」という仕事というだけでは具体的に説明するのはとても難しく、ひとつひとつの事例の積み重ねで実現に一歩でも近づければいいのかなぁと思っている次第です。

そんななか、縁あって2023/5/1にグランドオープンした島根県出雲市の地方創再生プロジェクト「WindyFarmAtmosphere」の立ち上げ支援をさせていただいておりまして、今回のプロジェクトで気づかせていただいたことを少しメモ。

島根県 出雲市 湖陵西海岸の「食」をベースとした地方創再生プロジェクト

夕日を臨む大型レストラン&全室オーシャンビュー“崖の中”のホテル&大型パーキングエリア複合施設
WindyFarmAtmosphere」ウィンディーズファームアトモスフィア

■レストラン 180席
Firewood Grill & Italian Restaurant “GARB CLIFF TERRACE”

■ホテル 8室
IZUMO HOTEL THE CLIFF

■出雲湖陵パーキングエリア 駐車場200台(ハンバーガー、ラーメン、カフェ、アイスクリーム)

こんなすてきな施設が出雲大社から南に20分程度のところにオープンしました。
目の前は日本海。海を見ながら、夕日を見ながら時間を過ごせる場所ですよ。

プロジェクトが目指しているのは「食から作る地方創再生」

大阪からはじまり、東京に進出、今や約100店舗のレストランを運営する上場企業のプロジェクトが、遠く離れた出雲の地で展開するビッグプロジェクトをどのように展開していくのか、「食」を切り口にした地方創再生とは具体的にはどう進められるものか、目の前で展開をみながら、勉強させていただいています。

この会社はバッドロケーション戦略といいまして、ふだん見過ごされている地域やエリアにある本来の良さや価値を発掘し、「食のチカラ」を活用しながら、その場所の良さを引き出す店舗開発やサービス提供を行うことで、人々の交流が生まれる場所をづくりを提案しておりまして、すでに兵庫県の淡路島でのビッグプロジェクトを成功しております。

フロッグスファーム https://frogsfarm.jp/
観光的には何もない淡路島の西海岸にできた一軒のレストラン「Garb Costa Orange」からはじまり、そこから周辺にホテルや飲食店を続々とオープンさせ、約5年で年間30万人が訪れる観光スポットとして成長を続けています。

なにもないところに人を集めるのに一番強いコンテンツは「食」。
その地域に縁もゆかりもないところに進出しているわけですが、しっかりと地域事業者や生産者の方を巻き込んで地元のおいしさをカタチにして提案したことで成功しているようです。
こでのポイントはふたつ。
●「ヨソモノ」が「食」を切り口に新しい地域の表現をもたらしたこと
 食の素材はもともとその地域にあったものですが、「どのように料理するか」「どんなスタイルで提供するか」で価値づけが変わります。中にいると気がつかないところをヨソモノが新しい表現で提供することにより、人が集まる起爆剤になったのではないでしょうか。
●地域の人たちにも参加いただき、一緒に地域を盛り上げていること
 地産地消は当たり前。地域の食材を仕入れるだけでなく、事業にも参画いただき、新しいお店を作り出す。そうすることにより、また新しい価値が生まれ、人が集まる。そして、新しい雇用も生まれる。淡路島のプロジェクトでは地域の廃校になった小学校を買い取り、地元のみなさんが集まる場所として食堂や交流施設を作り、お祭りまでやっています。

地域とうまくつながりつつ、人がどんどん集まる淡路島のプロジェクトはまだまだ進化しています。

今回気がついた「食」で地域を活性化させるポイント

今回のプロジェクトで勉強させていただいたのは、
「食」を地方創再生のマグネットとするために必要なこと

一般的に食で地域を盛り上げることを目的に飲食店を開業すると地産地消を謳い、名物料理を踏襲し、地域色たっぷりのお店作りをしてしまうのですが、それだと観光客にはわかりやすいけど、地元の人からすると当たり前すぎて新鮮味に欠けてしまうような事例を見かけます。地域での出店の場合、もともと人口も流動人口も少ないですから、売上の6~7割は地元需要やリピーターで成り立ち、残りを浮動票の観光客や一見さんで埋められるのが理想ですから、地元に支持されつつ、外の人に来てもらうというマーケティングが必要かと思います。そんな前提で私が気づいた「食」で地方創再生を実現するためのキーワードはふたつ。「デザイン」と「トランスクリエイション」。

●デザイン
 ・新しさの中に地域を感じさせるストーリーを持ったデザイン
 ・地域の人たちが新しさを感じる、そして自慢したくなるデザイン
●トランスクリエクリエイション(※)
 ・昔ながらの味をそのまま踏襲するのではなく、料理人が素材を新しい解釈でメニュー化する
 ・農産物・肉・野菜のブランド名がついた素材のよさを料理することでわかりやすく伝える


※「翻訳(translation)」と「創造(creation)」を組み合わせた翻訳業界で使われる造語
詳しくはこの記事で「トランスクリエイション⇒観光をアップデート」
https://tabinakalab.biz/post-281/

デザインはホームページや冒頭の写真でなんとなく伝わると思いますので、トランスクリエイションの解説を少し。。。といってもそんなに難しいことではありません。

・出雲西浜いも
・出雲桃翠園の抹茶
・木次のパスチャライズミルク
・奥出雲の醤油むらさき
・多伎の藻塩キャラメル
これらは地元では有名な素材ではありますが、おそらくこの素材をそのまま食べてもそのよさは伝わりにくいものだと思います。それを出雲湖陵パーキングエリアのアイスクリームショップ「クリフエンド アイスクリーム」ではこの名前のままアイスクリームのフレーバーとして提供しています。
試食してみると実にうまく素材を生かした味として「意訳」「変換」できています。
地元の方たちも「うまい」と行ってるので間違いないです(笑)
そして、おもしろいのは食べた後に地元の人たちはみなさん多伎の藻塩や西浜いもが地元では有名だという話を語りだすのです。
これが「食のトランスクリエイション」。
有名だというだけでは伝わらない素材の良さを伝えるしっかりとした味が提案されると自信をもって語れるんですよね~。さらに、ひとつのフレーバーだけだと「変わり者フレーバー」と思ってしまいますが、まとめてみると島根の素材をちゃんと伝えられるものになっているのです。

レストランのメニューもジャンルにこだわらず、洋のテイストも和のテイストにも対応して地元リピーターが飽きないような工夫をしつつ、観光客向けには代表料理としては薪火を使った島根牛メニューを提案したりしてわかりやすく伝えています。このあたりのバランスもデザインされているのとないのとでは全く違った結果になると思います。説明以上に大切なのは食べた瞬間にその意味が伝わること。「食」の持つチカラ、「食」の発するメッセージをうまく意訳することが大切なのです。

デザインとトランスクリエイションがしっかりしていると「伝わる」のです

今回の私の気づきはオープン前の内覧会に参加者された地域のみなさんの言葉の中にありました。
はじめてここにきて、施設を見て、食事やスイーツを楽しんでみた人たちから出たのは「こんなところにこんなに素晴らしい場所を作ってくれてありがとう」という言葉。
オープン前にもかかわらず、みなさんが直感的にこのプロジェクトを受容しており、すでに自慢したくなっているということ。

長ったらしい説明をせずとも、しっかりと意図が伝わっている!
まさに「デザイン」のチカラ、「トランスクリエイション」の効果として伝えるべきメッセージが伝わっている!

地域の中での高評価は地域にこのプロジェクトを定着させていただくためはとても大事な要素ですし、よいクチコミが広がっていく予感を感じさせます。おかげさまで、すでに旅行会社や法人企業からの団体送客、イベント、貸切営業なども入りだしています。
この先どのように展開していくのか?
これからの展開が楽しみなプロジェクトが今はじまりました。