縁あってタクシー業界の事業開発支援の仕事をしています。
ということで観光タクシーについての提案をふたつほど。
ドアツードアの送迎ができて好きな場所に行けて時間配分も柔軟に対応ができるのがタクシー。電車にもバスにもできません。(料金の話はおいといて)
アフターコロナで高齢者層がようやく外出し、旅行に出かけるようになった今、高齢者向けの観光タクシーは確実に伸びる市場ではないかと思っております。
しかしながら眼下の状況では、コロナ禍以前から長らく不況だったこの業界にも明るい兆しが見えつつあり、一台あたりの日々の売り上げはコロナ禍を超えるようになってきた半面、ドライバー不足により予約を受けきれない、車はあるけど乗務員がいないなど、新たな問題を抱える事態になっています。つまり乗務員の給料は上がるが、車両が稼働しないのでタクシー会社の売り上げは上がらないということが起こっているそうです。そんな状況ですから、乗務員さんたちとしてはあえて稼働率の低い観光タクシーの売り上げを狙わなくても目の前のお客さんを運ぶだけでも食っていけるということになります。そうするとまたまた観光タクシーが新しい需要を切り開く機会はおあずけということですね。でも一方で観光需要も戻ってきていますし、長距離を歩けないお年寄りはどんどん増えていることを考えると観光タクシーのニーズは高まりばかりだと思うのですが。。
先のことを考えるにあたり、このようなデータが教えてくれています。
こちら、以前見つけた平成27年国土交通省の調査資料なのですが、65歳になると3割程度の方が1km歩くのも大変。75歳以上になると4割程度。都市圏のお年寄りほど長距離を歩けませんから、観光旅行に行ったときは大変な思いをしていると思います。若くて健常な方には気づかないことなのですが、高齢者にとっての1kmはとても体力が必要なことなのです。
余談ですが、先週、今年の大河ドラマで注目されている静岡に行き、徳川家康ゆかりの地を訪ねてみました。その際に一番人気の久能山東照宮を訪れた時のこと。当日は晴天で気温も30度近く。久能山東照宮は地上から歩くと1159段の階段を上らないと着きませんので、ツアーバスは東照宮の上にある日本平にバスを停めてロープウェイで向かえば階段の苦行は不必要。大変な思いはしなくていいですよとバスガイドさんの案内に従い、多くの高齢者の方がバスを降りて向かっていました。しかしながら、東照宮の境内にほど近いところがロープウェイの到着地点とはいえ、そこからさらに石段を数十段登らないと本殿にたどり着かないのです。参道には上るのをあきらめた方もいたり、つらそうな顔をして無理に登ろうとしていたりする方も。これからもっと高齢化していくことを考えると急こう配や階段のない参拝方法を考えないとお客さんは来なくなってしまうのではと心配してしまいました。
なぜ観光タクシーの市場は広がっていないのか?
タクシーの運賃はご存じのように地域ごとに公定運賃、すなわち定価で決まっています。通常は距離制運賃と時間制運賃(貸切運賃)があり、割引率に至るまで地域内は基本的に共通です。つまり、お客様から頂ける運賃については個人差が認められていないのです。だから、観光案内ができようとできまいといただけるお金は同じなのです。しいていえば、観光ガイドができるドライバーには時間単価の高い貸切観光の仕事が回ってきやすいというくらいの差ですね。
これでは努力しても報われないですよね。
例外としては京都の観光タクシーでしょうか。
もともとの観光需要が高いこと。路線バスでは効率的に観光しにくいこと。観光貸切でなくても普段から「あれはなに?これはなに?」と聞かれるからおのずと知識を持っていること。このような素地があると貸切の観光タクシーのほうがしっかりと稼げるので、ドライバーさんたちも勉強する。なかには外国語を使って稼ぐ人もいます。とりわけ、MKタクシーさんはホームページがものすごく充実していますし、YouTubeも活用して観光タクシーを販売しています。やるべきことをしっかりやっていれば売り上げを期待できるから担当者をつけて宣伝しているということでしょう。
平日用の観光貸切タクシーという弾力的な運賃制度があるべき
京都ほど1年を通して観光客が集まる地域はほとんどありませんから、一般的な観光地についてのアイディアをひとつ。日本人相手の観光は土日祝のみに集中しているので、年365日のうち1/3程度しか販売機会がないとよく言われます。ですから、毎日毎日距離制運賃で乗務しているドライバーさんからすれば「不安定」な売り上げに期待を持てません。でもこれから期待できる市場は仕事をしていない「高齢者」ですから、土日祝ではなく平日に旅行をしてくれるはず。でも、公定運賃には曜日の波動はなく何曜日に乗っても運賃は同じなんです。そこは需要と供給の論理は全く排除された世界なのです。
ということで平日用の割安な観光貸切タクシーという弾力的な運賃制度を作って高齢者の旅行の利便性向上と観光タクシーの市場拡大を目指してもいいのではないでしょうか。
タクシー乗務員さんの観光ポータルがあってもいいんじゃないか?
観光タクシーができる乗務員に対しての全国統一的な資格ってないんです。業界全体で取り組もうということになるとついつい「資格」とか「試験」とかでむりやり物差しのでなかろうとするのが悪いくせ。タクシー業界のホームページをいろいろと見てみましても、県単位・地区単位で資格や認定制度、研修制度等を実施しているものの、ガイドスキルや知識の統一的な基準はなく、なかにはタクシー会社を登録しているだけのようなところもあるようです。
頑張って観光案内を覚えて観光タクシーで食っていきたい、英語ができるからもっとインバウンドのお客さんを扱いたい、おいしいお店のことなら私に聞いてくれ、車でしか行けない絶景スポットを案内できる、などなど、観光案内だけでなく、さまざまな得意分野をもった個性的な乗務員さんは必ずいるばすですよね。でもタクシー業界は車とメーターを管理する法定運賃をがっつりと守る業界であって、乗務員さんの個性には値段をつけられません。タクシー会社もメーター運賃が決まっているから他のタクシー会社との差別化が不要なため、自社ホームページも持っていない会社のほうが多いくらいです。ましてや乗務員さんの個性を宣伝しているところは皆無です。
ならば、個性豊かな乗務員さんを売るポータルサイトを作って、得意分野を売る機会を増やすというのはどうでしょうか。販売価格は変えられないので販売機会を増やす。そこにファンが集まって市場を拡大する。全国のユニークな観光タクシーが地域の名物になる可能性も出てきます。観光案内部門と外国語対応部門の全国乗務員リストはタクシー業界の宝としてちゃんと管理すべきではないでしょうか?
以前「「二刀流」タクシードライバー 21/100」という記事で書いたのですが、二種免許を持ったタクシー乗務員が観光ガイドを学ぶのがいいのか、観光ガイドができるタクシー乗務員がいないのであれば、今、観光ガイドをやっている人がタクシー乗務員になるのがいいのかを論じています。観光需要が毎日のように発生していない段階においては外部人材で外国語や観光ガイドのスキルをもった人が二種免許を取得しておいて、本業がお休みの時に副業的にタクシー乗務員として稼ぐ「観光サブジョブドライバー」なんて人たちが生まれてくると面白いですよね!