都市近郊農村の可能性~できることをふやす農家体験

アイディアメモ

先日、福島県にある猪苗代湖の南、湖南町に行ってきました。猪苗代湖といえば普通は湖北がメイン、野口英世記念館や磐梯山、五色沼方面への観光が有名ですが、実は県の観光ポスターで磐梯山と猪苗代湖が一緒に入った写真はほとんどが湖南。猪苗代湖の絶景スポットなのです。そして、会津若松城と白河城を結び、奥州街道や越後街道を通じて江戸と越後、佐渡をつないだ白河街道の宿場町としてかつては繁栄していたそうで、豊臣秀吉が天下統一の仕上げに通ったという伝説や戊辰戦争では新選組が陣を構えたという歴史的な場でもあります。

がっ、観光ルート的には少し外れてしまっているエリア。観光で食っている人もあまりいません。そんな町で農泊で地域貢献を目指している「サウスレイクコテージ田舎」(https://tripsjpn.com/inaka/)に泊り、ご主人の小椋重雄さんと奥様にこれまでの取り組みについて話を伺ってきました。

この場所を一言でいえば、「とっても自由でいい場所」

・山があり、田んぼがあり、畑がある。
・湧き水も豊富。
・まわりに気兼ねなく過ごせる。
・雨でもバーベキューができる。
・水遊び場がある。
挙げればきりがないくらいの魅力があるのですが、「観光地ではない」ということで検索に引っかからないし、「有名ではない」ということでクチコミも増えない。
はたから見れば「やれることいっぱいあるのになぁ」なんて外野から思いつつもご夫婦お二人だけの運営ですから、あれもこれもできるわけでなく。。。スマホを駆使できるわけでもなく。。。
さて、この有名観光地でもないエリアで頑張っている農泊施設はどのようにすれば潤うのか。
いろんな話をたっぷりと伺いながら、考えてみました。

こういうところは「観光地」として「有名なスポット」として集客をするというより、「小学生ファミリーのクチコミ」だけで安定稼働するのがベストかな。きっとなんでもかんでも流行を追いかけず、ファンを作るマーケティングが求められるのでしょうね。

都会に住んでいる子どもたちには「ないものばかり」、田舎には「あるものばかり」。そこでその間にあるギャップに注目してみます。

田舎から見れば、「何でもあるから遊びにおいでっ」とセールスしがちなのですが、都会の子どもたちから見ると「はじめてのものばかり」。つまり知らないものを「ある」といわれてもよくわからないのです。おそらく遊び方もよくわからない。

都会の子どもたち、その親に伝えるべきは、そこにあるもので「なにがわかるのか」「なにができるのか」「どんなことができるようになるのか」という情報だ思います。

・田んぼの広さを歩いて測って大きさがわかる
・湧き水の冷たさがわかる
・虫はどこに隠れているのか
・虫に触れることができる
・田んぼの中の生き物がみられる
・夜にはどんな虫がいるのか
・里山の近くにいるのはどんな鳥か
・どんなところに虫は集まっているのか
・スーパーにはおいていないいろんな大きさの野菜が見られる

ちょっと歩いただけでも都会では見られないもの、絶対に体験できないことが目に前に広がっています。
・薪割りができる
・薪に火付けができる
・木を削って焚き付けを作れる
・火を消さないように何をすればいいのか体験できる
・焚火ができる
・花火ができる
・ピザ窯でピザを作れる
・ピザ窯で焼くとなぜおいしいのかがわかる
・BBQができる
・おいしく焼く方法が学べる
・でっかいシイタケが食べられる
・畑から野菜をちぎってそのまま食べられる
・トンボもチョウチョもカブトムシもみんな自分のもの
・そして、満天の星空などなど

ほかにも、農業に使う道具や機械、はたらくくるまなどは見るだけでもワクワクしますし、実際に使っているところを見られる絶好の機会にもなります。普段、土をいじったことすらない、ドロドロになって遊んだことがない子どもたちにとっては常識の中にない世界が広がります。
しかも、泊るのはキャンプ場ではなく、新しいできたロッジでの宿泊。ロッジというより普通の2階建て住宅のような作りを2つに割ってメゾネットとしている家族にピッタリのお部屋。トイレもお風呂も新品。部屋に入ると都会です(笑)もちろん熱帯夜は全くない世界。快眠が待ってます。
素敵なところ。

ここでのポイントは伝え方。
サービス提供者からすれば「こんな田舎にきてくれてありがとう」なのですが、都会にする人たちへの伝え方としてはもっと図々しくなってもいいと思います。「都会にはない」「都会では絶対にできない」「禁止されてること」「遠慮してできないこと」。。。あんなこと、こんなことをリミットを外して楽しめる場所。「ここにくるとできることが増える」。できることの選択肢を考えられるだけのすべてを書き連ねて、絶対に1日や2日では楽しみ切れない素敵な場所であることを情報としてしっかり伝えられるとよいかと思います。ただし、今や小学生の子どもを持つ親世代ですら、「田舎体験」「田舎暮らし」の経験値はありませんから、こどもたちにその魅力が伝えきれない時代、だからこそ、そこを親御さんも含めて「翻訳して」伝える必要があると思います。ここではなにができるのか。どんな楽しみ方をするところなのか。たっぷりと楽しんでいただくためには事前にある程度の理解が必要なわけです。SNSの時代ですから、ちょっとケガしただけでも場合によっては炎上騒ぎになりますので、そのあたりのケア(都会ではないことの理解)も大切です。それも大事な伝え方のひとつです。

加えていえば、こちらのご夫婦にとって農泊を持続的ななりわいとするために必要なのは、大量のゲストが押し掛ける姿ではなく、自分たちの手の届く範囲で無理せずにサービスを提供していくこと。つまり、田舎の一軒家で外からのお客様を受け入れるためにはゲストの理解だけでなく、周辺のみなさんの理解も必要ですし、見ず知らずのゲストが一体何をするのかと毎日神経をすり減らすだけの体力はありません。いつでも安心してゲストを受け入れられることが大事であり、できるだけゲストとの間に信頼できるコミュニケーションがあるということが求められるのです。
その上に立って、相互理解のもとに楽しい田舎暮らしを体験していたたげることが農家にとって、農泊にとって、とても大切であるということを強く感じた次第です。

ということで、薪火を囲んでBBQを楽しみ、そしてご夫妻の話を伺いながら、予定調和で出来上がっているテレビの世界やテーマパークにはない自然との共存の姿をもっとたくさんの人たちにたっぷり楽しんでもらいたいなとつくづく感じた真夏の一夜でした。この小椋さんご夫婦の取り組みが地域に刺激を与え、まわりに仲間が集まり、活気あふれる場所になりますように。
一泊だけでしたが、さまざまな勉強をさせていただきました。感謝♪

そして、翌日。
今回この場に連れてきてくださったのが、かつて同じ職場の仲間だったフロントラインの前好光さん。その前さんが教鞭をとる湖南高校にゲスト講師として観光ビジネスについて話をさせていただきました。観光業とは幅広いビジネス領域であり、ひとくちに旅館の仕事とはいっても宿泊や飲食、物販だけでなく、販促や情報発信、掃除、クリーニング等さまざまな仕事をする人たちによって支えられているという話の中で、自分ができること、これからやりたいことについて考えていただく機会としました。

今はできることが少なくて、社会に出ることに対して自信が持てないかもしれませんが、今できることでも社会の役に立つことはあると思いますし、全部ができなければ社会で通用しないわけではないのです。自分が持っているスキルは持っていない人にとってはとても役立つこと。これから先に身につける知識やスキルが増えれば増えるほど、職業選択肢が増えることにつながるということが少しでも伝わってくれていれば幸いです。

見るものすべてが勉強になる2日間でした。