モノサシ(ターゲット)を変えて体験プログラムを考えてみる 88/100

以前、東京都心から約90分くらいに位置する観光農園とキャンプ場を併設している施設でビジネスミーティングをしていた時、おもしろい話を聞きました。
法人向けと個人向けで貸農園をやっているのですが、法人は都内の大手企業のレクリエーション、福利厚生施設としての契約が多く、社員がキャンプやバーベキューを楽しみがてら収穫体験をするという感じで契約が多いそうです。ですから、常に同じメンバーで貸農園の手入れをするわけではないので、施設のほうでほとんど畑の面倒を見て、毎月収穫物を企業向けに送っているそうです。これはこれで、契約企業としてもおいしいところどりをして使えるからメリットありということで、人気だそうです。

そして、個人の契約ですが、やはり都心に住む個人の方が多いそうです。
といっても毎週毎週畑のために1時間も2時間もかけてくることはできないでしょうから、往復時間とか交通費とか考えると少々野菜が収穫できてもペイしません。
それほどメリットを感じないなあと思い、
「会費はいくらくらいですか?」と聞いたところ、貸農園の会費は年10万円ほどだそうです。
「えっ、どんな方が契約するのですか?」と聞いたところ、都心に住むIT系の企業の社長ファミリーが多いそうです。簡単に言えばセレブファミリーです。
「その目的は?」・・・なんと、子どものお受験だそうです(笑)
都心に住む子どもたちはどうしても自然と触れ合う機会が少ない、しかも土いじりとかやったことがない、ということで「自然体験を買っている」わけです。さらに「作物の成長を観察できる学習を買っている」ということになります。こちらもまた平日は貸農園が面倒を見て、収穫期になるとファミリーでやってきて写真を撮りながら収穫体験をして、お受験の面接のときに「自然とのふれあいから学んだことを発表」するそうです。

なるほど!
「体験」もいろいろな「売り方」といいますか、「売れ方」があるものですね。
買う人によって「買う理由」が違うということがポイントです。

経産省が先ごろAI時代に生き残るための未来人材ビジョンの中間とりまとめ案を発表しました。
どんな仕事がAIに置き換えられてなくなりそうなのか、AIやロボットによる雇用の自動化可能性の高い業務を図示して解説しています。経済産業省 令和4年4月 未来人材ビジョン (中間とりまとめ案)

そのなかで「意識・行動面を含めた仕事に必要な能力」が2050年になるとどう変わるかの予測が書いてありました。

経産省が先ごろAI時代に生き残るための未来人材ビジョンの中間とりまとめ案を発表しました。
どんな仕事がAIに置き換えられてなくなりそうなのか、AIやロボットによる雇用の自動化可能性の高い業務を図示して解説しています。経済産業省 令和4年4月 未来人材ビジョン (中間とりまとめ案) より

将来仕事をするときには「問題発見力」「的確な予測」「革新性」が求められます。
今、何が起こっているのか、どこに問題があるのかにいち早く気づき、先々にどんなことが起こるのかを予測して、常に新しいことにアンテナを張り巡らせ、取り入れながら、的確に解決策へと導く。という結構スーパーマン的な資質が求められていくようです(笑)
今、会社で「若い子」がそれをやると結構頭をたたかれ、「周りをよく見ろ」といわれかねませんよね。ようするに将来的にはいわゆる「サラリーマン」という職業はなくなり、みんな「経営者」として仕事をするのでしょう。

会社の枠を超え、地域の枠を超え、国の境界を越え、DAO(Decentralized Autonomous Organization)的な組織が当たり前になるということを前提に能力を磨いていかなければならないことになります。

DAO(Decentralized Autonomous Organization)は日本語にすると「分散型自律組織」となり、ブロックチェーン上で世界中の人々が協力して管理・運営される組織のことです。中央管理者がおらず、参加者同士で管理し、透明性が高く、誰でも組織に参加できるフラットな集まりでビジネスが回っていくみたいです。

ながながと説明してしまいましたが、
旅行のトレンドとして「見る」「食べる」から「知る」「感じる」「体験する」へとシフトしていますので、「体験」「着地型商品」といわれる商品がこれからますます生み出されると思いますが、さきほどの農園の話でお分かりのように「目的によって支払うお金が違う」ということを意識した方がいい。ということがポイントだと思います。

いちご狩り食べ放題 \1,500。ミカン狩りも同じです。
さつま芋堀りも1,000円~2,000円。

でも、貸農園は同じような農業体験ながら、なんと年間10万円で売れる可能性を秘めています。
なぜならば、継続的に農園を借り、農作業をして収穫の喜びをするという体験により、「経験」を身につけ、「受験対策」ができるから。

経産省の話と無理やりつなげるならば、農地を借りて、作物を育て、収穫するまでには自然を相手に様々なトラブルにあいながら、「収穫しておいしくいただくというゴール」を目指すわけですから、そこには2050年に必要な「問題発見力」が必要であり、「的確な予測」をもとに収穫までを失敗しないように対策していく必要があるというわけです。それが1年10万円という価値です。

ですから、「収穫体験を売る」だけなら1,500円となるところ、同業他社のつけている値段に流されず、商品価値を測るものさしを変えて、「将来必要な能力を磨くという目的を売る」とすれば、もっと高く売ることができるのではないでしょうか。

たとえば、「いちご狩り」はわかりやすくて訴求力の高い商品名ですが、「糖度10越えのいちごを育てよう」という体験には「知る」と「体験する」の価値が上乗せされます。収穫期にいちご狩りで稼ぐにはシンプルなネーミングが求められるでしょうが、収穫期以前からお客様を集めて高付加価値な体験を提供するというのも新しい稼ぎ方ですよね。

日本全国さまざまな体験プログラムがありますが、「将来身につけるべき能力やスキル」を体験要素に含めることで、プログラムに深みができ、収益性も高くなると思います。「儲からない体験」からの脱却を試みましょう。

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